サバービア通信 名句鑑賞 今月の一句より （２０１３年１２月号）

病中吟（びょうちゅうぎん）

旅に病んで夢は枯野をかけ廻る
（たびにやんで ゆめはかれのをかけめぐる）

　　

芭蕉（ばしょう）

　

上記の写真は 模糊の旅人ex様のご厚意により使用させていただいております。

「月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人也。（つきひははくだいのくわかくにして、ゆきかうとしもまたたびびとなり）」で始る『奥の細道』は芭蕉が旅の詩人であることを明らかにしています。この句は芭蕉の絶句として有名ですが、芭蕉自身は「病中吟の妄執であって辞世ではない」と強調したと支考編『笈日記』は伝えます。事実、芭蕉はその後長崎への旅を夢見ていたようです。芭蕉が死んだのは南久太郎町御堂筋前の花屋仁右衛門方の貸座敷で大坂に着いて約一ヶ月後の元禄七年十月十二日のことでありました。芭蕉の遺骸は伏見を経て膳所の義仲寺に葬られました。いま、大阪の南御堂の境内の隅にこの句碑が建てられていますが、「廻る」の読みは「めぐる」が正しく「まわる」は間違いです。　（中杉隆世）


２０１３年１０月に
サバービア倶楽部の俳句の会　主宰者である
中杉隆世先生が群馬県に転居される事になりました。

2013年9月27日　俳句の会にて posted by (C)サバービアシティ２１

今後の俳句の会としましては、
引き続き中杉隆世先生に講師をお願いし
無理なく出来る範囲で俳句の会を継続していく予定ですが
「サバービア通信　名句鑑賞　今月の一句」　は　
これで一旦　投稿を締め切らせていただきます。

代わりに、「〜まど〜　今月の主題と例句」としまして
テーマごとに俳句をご紹介させていただきます。

引き続き、「〜道草〜　今月の兼題と例句」と併せて
お付き合いいただけますよう
宜しくお願いいたします。

サバービア俱楽部　俳句の会　一同

サバービア通信 名句鑑賞 今月の一句より （２０１３年１１月号）

切干やいのちの限り妻の恩
（きりぼしやいのちのかぎりつまのおん）

　　　　

草城（そうじょう）

　

切干は千切りのように大根を薄く切って天日に干したもので戦後の貧しい頃煮物や漬物にして良く口にしたものです。
日野草城（ひのそうじょう）は大正から昭和初期にかけて「ホトトギス」に新風（しんぷう）を巻き起こした若手代表作家でありますが、虚子（きょし）の「花鳥諷詠（かちょうふうえい）」に反する無季俳句（むきはいく）を主張したため師（し）の虚子から破門（はもん）されました。

戦後、「青玄（せいげん）」の主宰（しゅさい）となりましたが、不幸にも肺結核を患（わずら）い更に緑内障（りょくないしょう）で右目を失明したため病臥（びょうが）は十年にも及びました。その間、看病はもとより、雑誌発行から来客接待に及ぶ日常の一切を妻晏子（やすこ）が負担したのであります。「いのちの限り」というのはそういう妻に対する不甲斐無（ふがいな）い夫からの精一杯の感謝の念を伝えようとしたものであります。　

中杉隆世

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サバービア通信 名句鑑賞 今月の一句より （２０１３年１０月号）

爛々と昼の星見え菌生え
（らんらんとひるのほしみえきのこはえ）

　　　　

虚子（きょし）

　

真昼の青空に爛々（らんらん）と輝く星が見え山には菌（きのこ）が生えているという不思議な光景です。

この句は、昭和二十二年十月、虚子（きょし）が疎開先の小諸（こもろ）から鎌倉へ引き揚げるという事を知った長野の俳人達が大挙（たいきょ）して松茸（まつたけ）を山程持って現れ、そのとき開かれたお別れ句会に出された一句ということであります。信濃（しなの）との別離の思いに浸っていた虚子が「深井戸（ふるいど）に昼の星が映っていた」という一俳人の話に興味を抱きインスピレーションを得てこのような壮大かつ幻想的な世界を想像したものと思われます。

信濃は山国（やまぐに）ですが昔から太古（たいこ）の宇宙そのままの生成（せいせい）の力を感じさせる神秘的な場所とされており、見える筈（はず）の無いものが見えたりしたのかも知れません。

中杉隆世

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