サバービア通信 名句鑑賞 今月の一句より （２０１３年５月号）

朴散華即ちしれぬ行方かな
（ほうさんげすなわちしれぬゆくえかな）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　川端茅舎（かわばたぼうしゃ）

上記の写真は「野の花のお気楽日記」様のご厚意により使用させていただいております。

川端茅舎（かわばたぼうしゃ）は昭和十六年七月十七日に亡くなりました。これはその時の辞世（じせい）の句であります。
「朴散華（ほうさんげ）」とは朴（ほう）の花が散（ち）ることで死を意味します。
「散華（さんげ）」は仏教用語（ぶっきょうようご）で紙の花を撒（ま）き散らす法会（ほうえ）の儀式（ぎしき）のこと。
散った朴の花の行方（ゆくえ）が判（わか）らないように自分も死後は行方が知れなくなることだろうという深い洞察（どうさつ）を示（しめ）したものです。

辞世（じせい）と言えばどこか暗く仏教臭（ぶっきょうしゅう）のするものですが、この句には高く明るく悟（さと）り切った境地（きょうち）が表現されており「花鳥諷詠真骨頂漢（かちょうふうえいしんこっちょうかん）」と讃（たた）えられた人に相応（ふさわ）しい絶唱（ぜっしょう）となっております。

この朴の花と茅舎のいのちとが一体化（いったいか）した句は、芭蕉（ばしょう）の辞世句「旅に病んで夢は枯野をかけ廻る（たびにやんでゆめはかれのをかけめぐる）」にも匹敵（ひってき）する名吟（めいぎん）であると思われます。

中杉隆世

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