2013年12月15日

〜道草〜 今月の兼題と例句  九. 初笑(はつわらい)と 雪嶺(せつれい)

平成二十三年初句会の季題は「初笑(はつわらい)」と「雪嶺(せつれい)」にさせて戴きました。
「笑う門には福来る(わらうかどにはふくきたる)」という諺(ことわざ)がありますように「笑う」ことは幸福(こうふく)の原点(げんてん)と申せます。
それが、「初笑」となりますと更にお正月の御目出度(おめでた)い雰囲気が加わります。

口あけて腹の底まで初笑い                 虚子(きょし)
(くちあけてはらのそこまではつわらい)


これは豪快(ごうかい)な屈託(くったく)の無い「初笑」です。思わず一緒になって笑いたくなるような明るさがあります。

初笑深く蔵してほのかなる                 虚子(きょし)
(はつわらいふかくぞうしてほのかなる)


こちらは奥ゆかしく淑(しと)やかな「初笑」です。
人の内面は表情や態度に表れます。それをすかさず捉(とら)えてこのように的確(てきかく)に表現出来るのは客観写生(きゃっかんしゃせい)の賜物(たまもの)と言えます。俳句を「極楽(ごくらく)の文学」と唱(とな)えた虚子に「初笑」の句が多いのも尤(もっと)もなことと頷(うなず)かれます。

「雪嶺(せつれい)」は独立した季題ではありませんが、「雪嶺」を季題とした名作が沢山あることも事実です。虚子編新歳時記(きょしへんしんさいじき)では「冬の山」の中で「襞(ひだ)の深い山々に雪嶺が打重(うちかさ)なってゐ(い)る遠山(とおやま)などが思ひ(い)浮かぶ」という説明がありますが、傍題(ぼうだい)としては扱われておりません。
ただ、一月の「雪」の例句の中に

雪嶺に汽車あらはれてやゝ久し               汀女(ていじょ)
(せつれいにきしゃあらわれてややひさし)


があり、雪の一景(いっけい)として認めているものと思われます。
「雪嶺」は、松本たかし句集『石魂(せっこん)』の中に多くの作例があります。

雪嶺に三日月の 匕首飛べりけり               たかし
(せつれいにみかづきのひしゅとべりけり)

蒼天の彼の雪嶺の鎌尾根よ
(そうてんのかのせつれいのかまおねよ)


たかしは「雪嶺」という厳しいイメージと緊張感ある言葉の響きを好んだのでしょう。

野の一樹より雪嶺へ道はじまる               朱鳥(あすか)
(ののいちじゅよりせつれいへみちはじまる)


は朱鳥の第三句集『荊冠(けいかん)』に収録されており、芸術の理想を「雪嶺」で象徴(しょうちょう)しそれを目指す作家の真摯(しんし)な姿勢を感じさせてくれる私の大好きな作品です。

また、石田波郷(いしだはきょう)には句集『鶴の眼(つるのめ)』に

雪嶺よ女ひらりと船に乗る                 波郷(はきょう)
(せつれいよおんなひらりとふねにのる)


があり「この「女」がどんな女か。雪嶺せまる河(かわ)に、今(いま)一隻(いっせき)の気動船(きどうせん)が煙を上げ纜(ともづな)を解かう(とこう)としてゐ(い)る。雪嶺よの「よ」が面白い。」という自註(じちゅう)を行っております。

雪嶺のひとたび暮れて顕はるる               澄雄(すみお)
(せつれいのひとたびくれてあらわるる)


という森澄雄(もりすみお)の句も私の好きな句の一つです。雪嶺が一旦暮れた後に再び夜空に浮かび顕(あら)われるという光景はいかにも神秘的な感じが致します。



(平成二十三年一月六日 葉月会「道草」より)




2212716.jpg




俳句・短歌 ブログランキングへ

posted by 俳句の会 世話人 中杉 髏「 at 00:00| 一月の季題について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする