サバービア通信 名句鑑賞 今月の一句より （２０１２年１０月号）

此の道や行く人なしに秋の暮
（このみちやゆくひとなしにあきのくれ）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　松尾芭蕉

大阪の地下鉄（ちかてつ）四天王寺前夕陽丘駅（してんのうじまえゆうひがおかえき）に近い大阪星光学院（おおさかせいこうがくいん）の蕉蕪園（しょうぶえん）に、この句の初案（しょあん）の所思碑（しょしひ）が立っております。

元禄（げんろく）七年（一六九四）九月二十六日、芭蕉は此処（ここ）にあった浮瀬亭（うかむせてい）で半歌仙（はんかせん）の発句（ほっく）としてこの句を作りました。
暮秋（ぼしゅう）の日暮れの寂しさに加え、独り歩むこの道を行く人は自分以外には誰も見当たらないという寂寥感（せきりょうかん）の表明（ひょうめい）です。

「此の道」とは「笈の小文（おいのこぶみ）」の「この一筋」と同じ意味の求道的（きゅうどうてき）全人生を象徴した言葉であります。
この半月後、芭蕉は「旅に病で夢は枯野をかけ廻る（たびにやんでゆめはかれのをかけめぐる）」という一句を残し世を去りました。

この句は初め「此の道を」でありましたが、推敲（すいこう）の結果「此の道や」に改められました。
たった一字の違いで代表句となったのです。

中杉隆世　

俳句・短歌 ブログランキングへ